3人のアウトローにみる江戸っ子たちのスーパーヒーロー観。

nezu

「助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)」といえば、市川団十郎の歌舞伎十八番のなかでも人気の演目である。紺色の蛇の目傘をさして花道からさっそうと登場する助六のファッションは、黒い着流しに袖口からのぞくド派手な赤い襦袢、綾織の帯に鮫鞘(さめざや)の脇差しをさして、頭には江戸紫のはちまきをしめ、足袋の色は黄色。ガバッと足を開くと真っ赤なふんどしがチラリと見える。このド派手な助六こそ、歌舞伎の中の登場人物とはいえ、お江戸いちばんのモテ男。江戸っ子たちを魅了したスーパースターだった。

助六のなにが江戸っ子たちを魅了したかというと、その奇抜なファッションやマシンガントークのような小気味のいい啖呵はもちろんのこと、なによりもこの無法者でありながら江戸いちばんの伊達男の助六が、武士の権威をかざす旗本奴らを痛快にやっつけてしまうという役どころがウケた。粋、男伊達のアウトロー、ド派手な衣装、小気味のいい啖呵、そしてわかりやすい勧善懲悪のストーリー。ウケないわけがない。助六の胸のすくようなかっこよさは、江戸っ子たちが生み出した美意識である粋の権化にほかならなかった。

さて、助六は歌舞伎の登場人物だけど、現実の社会の中のヒーローはというと、江戸といえば火事。火事といえば町火消し。そう、町火消しは江戸の町のリアルなヒーローだった。江戸時代の火消しは現代の消火とは方法論がまったく違う。火を消すのではなく、燃えるものを破壊してこれ以上燃え広がることをふせぐのが江戸時代の消火だった。とはいえ、火がまさに今、燃え盛っているなかでのこと。瞬時に火の燃えていく方向を見定めて、その先にある建物を鳶口であっという間に壊してそこに空き地をつくる。纏持ち(まといもち)は壊す建物の屋根に飛び乗って、そこで20kgもの重さの纏を建物が崩壊する寸前まで威勢よく振り続けた。まさに命がけの行為。町火消しは火除けのまじないとして全身に彫り物をしていたという。それはあたかも歌舞伎の荒事が現実として目に前に現れたような光景だったのかもしれない。

助六にせよ、町火消しにせよ、社会的には堅気とはいえないアウトローである。そう、江戸のヒーローの基本はアウトローなのである。じゃあ、そんなアウトローヒーローの代表格といえば誰か。天下の大泥棒、鼠小僧次郎吉だ。

強きをくじき、弱きを助ける。これもまた江戸っ子のヒーローの条件なのである。次郎吉は大名屋敷専門の泥棒。もともとは建具の職人で、コツコツと建具を作る職人に嫌気がさして、鳶職人になった。そんなわけで、建具屋として大名屋敷の内部を知りつくし、飛び職人として高い塀も屋根も、ものともしない身のこなしを身につけて、大泥棒になったのである。そうして次郎吉は、大名屋敷ばかりをねらって、忍び込んで大金を盗み出しては、貧しい庶民に分け与えていたという“正義の大泥棒”になっていったわけだけど、実はそのような義賊的行為は後につくられたフィクションだった。たしかに次郎吉は大名屋敷ばかりに忍び込む、いわば“大口狙い”の泥棒だったけれど、盗んだ金はすべて博打、女、酒につぎこんでいた。じゃあ、なぜ次郎吉がそんなふうに義賊に仕立てあげられたかというと、次郎吉が生きた時代をちょと遡ったころに稲葉小僧という泥棒がいて、この稲葉小僧こそが、盗んだ金を貧しい者にわけあたえていた義賊だった。で、後に松林伯圓(しょうりんはくえん)という盗人物の講談を得意とする講釈師が、次郎吉と稲葉小僧をくっつけて鼠小僧次郎吉という架空のヒーロー像をつくりあげてしまった。次郎吉の鼠の穴ほどの小さな穴からも忍び込める超人的盗みのテクニックと、稲葉小僧の強きをくじき、弱きを助ける義賊的精神。このふたつを組み合わせれば最強のヒーローのできあがる。目論みどおりに松林伯圓の講談は人気沸騰。その後、狂言作者の河竹黙阿弥(かわたけもくあみ)が「鼠小僧小紋東君新形(ねずみこぞうこもんはるのしんがた)」として歌舞伎に仕上げてこちらも大ヒット。かくして江戸の町に鼠小僧ブームが起きたのである。

ド派手であること。アウトローであること。超人的であること。無法者でありながら、強きをくじき、弱きを助ける義賊であること。これが江戸っ子好みのスーパーヒーロー像なのである。理由なんかとくにない。四角四面の世の中じゃあつまらねえ。誰かとんでもねえ奴が現れて風穴あけてくんねえと、息苦しいってもんよ。…というわけだろう。

江戸っ子について知りたい。ならば、この本がおすすめ。

mail5555

2016-06-17 | Posted in ニッポンばんざい!No Comments » 

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